組織での幹部同士の不仲は、さまざまな問題の原因となり、またその影響は深刻です。人数が増え、部署が増え…と組織が成長してきた時に方針を決めずに自然に任せていると、必ず幹部の不和は起こってくるものです。今回は、それが具体的にどういう順番で、どういうことを引き起こしていくのか書いてみたいと思います。
1. 不仲が周りから見ても明らか、空気が悪くなっている
不仲の関係には、様々な形があると思いますが、例えば、取締役同士や部長同士など同等の役職の場合であったり、周囲も感情的な振る舞いを受け入れてる場合、あからさまに嫌な態度をとりやすくなると言えます。具体的には、意図的に相手と行動をずらす、対話を避ける、情報を秘匿したりする等の傾向が現れたり、また、一度口論が起きると互いに非難、批判し合うようになり、合意形成や意思決定に時間が掛かるようになります。また、相手にだけでなく、自分の部署やチームの中でも批判をするようになるため、他のスタッフまでもが他部署に敵対心を持つという悪循環が生じます。その結果、トップダウンの方針がバラバラになり、組織全体の乱れが生じてきます。万一、幹部同士で少しでも不穏な空気が停滞しそうになった場合は、早期に各々が冷静に状況を分析し、問題を解決するための対話を積極的に行い、情報共有や協力体制のメンテナンスを図ることがとても重要なのです。
2. 情報の共有不足、チームワークの崩壊
幹部同士で相手を避けたり邪魔をしたりといったことが続いている場合、業務遂行のスピードが確実に低下している状況になっているでしょう。さらに、横の連携におけるチームワークや協調性も鈍化しているでしょうから、おそらく組織運営や業務に支障が生じている可能性が高いです。我々がとある企業で見たケースでは「嫌い、または苦手な人が出席する幹部会議はできるだけ欠席する」という個人方針で行動している幹部がいました。そのため、意思決定が度々遅れたり、会議での決定事項に対して「自分は出席してない(同意してない)ので責任はない」という言動をする方がいて、周囲もそれを許していたようです。組織全体が完全に縦割りになっており、現場スタッフが他の部署に無関心またはネガティブなイメージを持っている状況にありました。結局この企業はなくなりましたが、幹部がベクトルを合わせられないと組織の全体的な方向性がぶれ、組織運営に深刻な問題を引き起こす可能性があります。
3. 意思決定の停滞、スピード低下
幹部間の不和が深刻化し、意思決定の停滞、スピードが低下するとどうなるでしょうか。決定ができない、遅れるということは、市場環境や競合他社などの変化に対応することが遅れ、事業戦略の見直しや新たなプロジェクトの立ち上げも、全てが遅れていくということです。特に、緊急を要する場合には、意思決定が遅れることは会社の生き残りに関わることもあります。外部環境の変化に対応するためには、組織全体の協力、横断的な連携等により、よりスピーディに物事を進めていく必要がありますが、上層の不協和音によって、組織全体の運営が妨げられ、市場での競争力の低下につながることも考えられます。したがって、幹部間の関係性によって、意思決定のスピードは大きく変わってしまうのです。
4.トップダウンの方針がバラバラになる
セクショナリズムが強くなってくると、個人最適化が優先され具体的な以下のような影響が生じます。
- 業績評価の偏重:幹部が会社全体の業績よりも、自身の評価や昇進等へ焦点を当てるようになり、他の部署やチームの支援・連携を疎かにする等、全体のバランスへの意識が低くなる。
- 情報の隠蔽:幹部が自身の立場や権限を保護するために、重要な情報を他の幹部や部署と共有しない。これにより全体の情報共有や意思決定プロセスが阻害され、組織の透明性や効率性が損なわれる。
- 自部門の優先:幹部が自身の部門やチームの利益を優先し、他部署との協力やリソースの共有を制限する。これにより全体最適化や組織の戦略的な目標達成が困難になり、部門間の摩擦や対立が生じる。
- 権力争い:幹部同士が自身の地位や権限を確保するために争い、組織内のパワーバランスが崩れる。これにより、意思決定が停滞し、組織の統一性や方針の一貫性が欠如する。
各幹部が自身の意見を押し通したりや自部門の利益を優先することで、他の幹部との連携や全体最適化を軽視する傾向が生まれます。これにより、組織の方針や目標の一貫性が失われバラバラになるため、本来目指すべきところに注力できなくなります。
5. 人材流出の増加
マネジメント側の不安定さは従業員への影響も大きくなります。指揮命令系統に一貫性がないことで、従業員は不安や緊張感を抱き、職場の安定性にも疑問を抱くようになります。幹部同士の対立が目立つと、組織内の協力や協調性薄れ、従業員のモチベーション低下や職場のストレス増加が起こります。さらには、従業員が組織方針や目標の不一致を感じるようになり、自身の役割や仕事の意義に疑問を抱くことになります。また、幹部の問題解決や意思決定の遅れは、従業員の業務遂行スピードにも影響を与えます。結果として、従業員のモチベーションや満足度の低下、優れた人材の流出が増えるかもしれません。組織は幹部間の協調性を強化し、従業員に安定感と職場の安心感を提供する必要があります。
6. 組織風土・文化の変化
各幹部が自分の部門や部署を第一に優先する傾向を持ち、社長がその方針を受け入れている場合、会社は「分断されたアリの巣」のような風土・文化を形成する可能性があります。各部門は自己利益追求に重点を置き、競争や内部の利害対立が常態化するでしょう。また、情報共有や協力体制が欠如し、意思疎通や組織全体のビジョンが不明瞭な状態となります。そうなると、従業員1人1人が自身の部門の利益を追求することに注力し組織全体の目標や共通の目的に関心を持つことが難しくなってきます。結果として、組織内の協力やチームワークが低下し、組織全体の成果やイノベーションが妨げられる可能性がでてきます。
7. 倫理的な問題
最終的に最悪な事態となると、倫理的な問題へと発展し、企業の社会的信用にも深刻な影響をもたらすことになります。不和や対立により円滑なコミュニケーションが困難な状況では、情報共有や意思決定に支障が生じ、情報の隠蔽や不正行為のリスクが高まります。また、不仲な社員同士がチームを構成している場合、協力や連携がうまく行かず、業務の品質や効率性に悪影響を与えます。さらに、不和が組織全体に広がると、モラルの低下や組織文化の崩壊が生じる可能性があります。これによって倫理基準や道徳的な指針が欠如し、不正行為の発生リスクや蔓延しやすい環境が生まれます。そのため、組織は社員間の和解や協力を促進する取り組みを行い、倫理意識の向上と倫理的な行動の重要性を啓発することが重要です。